ベネチアは大好きな街です。海の上の街、沈み行く街、過去の輝かしい栄光を伝える街。
ベネチアを訪れるのはいつも寒い時期なので、やはりなんとなく暗い印象があったのですが、今回は水上バスのデッキに出ていても、風も春めいて、大運河はキラキラと明るく輝いていました。
水上バスの船着場には、ジプシーのお姉さん達がドレスを着て、上げ底の靴(台?)を履いて、ニッコリと手招きしていますが、物珍しさに写真を撮ってしまうと、モデル代を請求されます。ジプシー稼業も以前と比べるといろいろと進歩しているのですね。
近年、ベネチアのホテルの宿泊費が高騰し、本島のホテルは予約が取りにくく、本島手前のメストレ地区でさえ、便乗値上げされているらしいです。それほどたいしたホテルでもないのに、とガイドが言い放っていて、可笑しかったです。
ベネチアのホテルと言えば、世界の芸能人がよく利用する高級ホテルの「ダニエリ」をはじめ、有名高級ホテルがいくつかありますが、どれもかなり古く、潮風と海水の浸食のせいで、外観はかなり老朽化しているように感じます。ただし、中へ入ると、重厚な造りのロビーや、豪奢なイタリア家具で統一された、映画のセットようなクラシックな内装に驚きます。運河沿いに立つホテルは表玄関は道路に面していても、裏口は必ず水路に面していて、裏口が船着場(ボート乗り場)になっており、直接そこから船に乗って漕ぎ出します。ベネチアの街は車は走っていません。車の代わりに船に乗って移動するのです。迷路のように水路が入り組んでおり、その水路を橋がまたいで、道が続きます。ここでは油断していると、あっと言う間に迷子になりそうです。万一迷子になっても、ところどころの道の角にはよく見ると「per St.Marco」(サンマルコ広場方面はこちら)などと表示がありますから、その表示に沿ってサンマルコ広場を目指して歩いてゆけば、なんとかなりそうです。
地図を広げると、水路が道路そのものであることがわかります。この入り組んだ水路をあのゴンドラに乗って、ゆっくりと巡ることもできます。普通のゴンドラは4人乗り+船頭さん(ゴンドリエーレ)が多いですが、ペアシートのものや、もっと大人数が乗れるものもあります。ゴンドラにはゴンドリエーレ好みの装飾がされており、個性を比べるのも楽しいです。そして、ゴンドラに乗り込んで、ユラユラと海水の匂いのする水路を行き、石造りの橋をいくつもくぐれば、気分はすっかり「Like a Virgin」のマドンナ・・・海水によって浸食され、フジツボがびっしりついた、1階の水路側玄関の石段や、ガレージのような各家の船を係留するための柱を間近に見ながら、海面から見上げるベネチアの街は、確かにイタリアの他のどこにもない情緒が溢れています。
それからベネチアといえば、2月の厳寒の時期に行われるカーニバルが有名です。ベネチア全盛期の頃から何世紀も続いている伝統行事です。皆思い思いの仮面(マスケラ)やドレス、マントを身に着け、素性を隠して出歩き、数日間のカーニバルを楽しみます。映画のような、幻想的な世界です。この時期は世界中の人が訪れるので、ホテルも一層取りにくく、まだカーニバルを一度も体験したことはありません。一度はなんちゃって仮面舞踏会を体験してみたいものです。今回もあちらこちらにカーニバルが過ぎた後の、お祭りの後の余韻がそこはかとなく漂っているような気がしました。路地のお店にはお土産用の小さなマスケラから、本格的なマスケラまでぎっしりディスプレイされているのを見かけます。
仄暗い路地を抜けると、いきなり目の前には広々と明るいサンマルコ広場が開けます。正面にサンマルコ寺院と大鐘楼がそびえ立ち、ここにも鳩がいっぱいいます。大鐘楼に登る順番を待っている観光客が大勢いるので、広場をぐるりと取り巻く回廊に沿って、お店を冷やかしながら回ります。かの有名なカフェ・フローリアンが大鐘楼に向かって右手真ん中あたりにあり、映画「旅情」を思い出しながら中を覗き込んでみますが、置かれているメニュー料金が高過ぎるせいか、あまり人は入っていないようでした。(でもまだ外に明朗会計が表示されているだけマシですね)
地中海性気候のせいで、冬場には雨が多く、高潮の時などは海水が入ってきて、広場や寺院も水浸しになります。この広い広場が冠水してプールのようになってしまうのです。底冷えがする上に、水浸しなんて・・・カーニバルの時期に訪れるのを二の足を踏む理由でもあります。これ以上海面が上昇したら、どうなるのでしょうか。やはりベネチアはいつかは沈みゆく街なのでしょうか。
旧行政館の時計塔の鐘が鳴り響きます。広場にいる人々が一斉に上を見上げます。屋根の上のからくり時計です。サンマルコ寺院の外壁や大屋根も修復工事がおこなわれていました。サンマルコ寺院は5つのドーム屋根を持ち、モザイクやフレスコ画、彫刻で装飾されて、どこかエキゾチックな寺院です。十字軍の頃、ベネチアの繁栄を彷彿させる、内部も外部も独特で、一見の価値のある、大好きな聖堂の一つです。
希少価値の大理石や金が惜しげもなく使われた煌びやかな内部の装飾は過去の栄華を物語っています
海運国家であったベネチアの守護聖人マルコ、そしてベネチアの象徴の有翼の獅子像が高い屋根の上から見下ろしています。繁栄と衰退、十字軍、東方貿易、オスマントルコ・・・遥かな昔と遠い異国に思いを馳せることができる旅情に満ちた街は、何度訪れても、またゆっくり来たい、今度こそ地図を片手に端から端まで歩いてみたいと思わせる魅力ある街なのです。
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